冒頭からいきなりですが、初めて胎生魚を飼う方は、できれば小型水槽は避けましょう。
小型水槽は水替が楽で、気楽にどこにでも置けるし、多少水が入った状態でも移動可能と手軽なイメージがありますが実は結構大変なんです。
魚を飼う上でとても重要な濾過システムがプアなものになりやすい上に、水質がころころ変わります。そして何よりすぐに増えるという特徴を持った胎生魚には元々無理があるのです。
もうすでに買ってしまった方は小型水槽でがんばるしかないですが、そうでない方はまずは60cmレギュラー水槽から始めることをお勧めします。
水槽のセットから本格的に魚を迎えるまでの手順は、「胎生魚だから」という特別な支度はありません。
"水槽の立ち上げ"とでも入れて検索すれば、山のように情報が出てきますので当サイトでは特に触れません。
ネットでもいいし、飼育書でもいいし、水槽の立ち上げ方と共にまずは熱帯魚飼育の基礎知識を頭に叩き込みましょう。
「泥棒捕らえて縄をなう」ということわざがありますが、中には熱帯魚を買ってきてから初めてヒーターやカルキ抜きが必要だということを知ったという、まさに泥縄を地でいくような方々をお見受けすることがあります。
高度な知識を詰め込む必要は無いですが、せめて飼育書にある基礎知識くらいは覚えてから飼育に臨んで欲しいものです。
セッティング
胎生魚には、「こういうセッティングでなければ飼えない」という決まりのようなものはありません。
水槽と濾過装置とサーモスタット&ヒーターがあればとりあえず飼うことができます。
しかし、それだけでは寂しいので照明や砂利や水草などを用意する方が多いでしょう。
水道水に含まれたカルキを天日で抜くのが面倒な方はカルキ抜きも必要ですし、水替え用の器具やアミ、水温計等々他にも必要なものがあります。
胎生魚だから、という特別な器具は後述する予定の産卵箱くらいなので、お店で相談しながらそろえてください。通販やホムセンなども良いですが、多少高くなっても通える範囲にある専門店で購入すると以後相談相手になってくれるでしょう。
参考までに画像のようなセッティングにしておけば、生まれてきた稚魚の避難場所が多いので、仔を別水槽に分けてなくてもそこそこ殖えてくれる場合が多いです。 (もちろん例外もあります)
また、水草が遮蔽物となって、意地悪な個体から四六時中苛められるのを防いでもくれます。
濾過システムは、上部フィルターでもスポンジフィルターでも底面式でも、どれでもかまいません。
水量に見合ったものをショップで相談して選びましょう。
タイプによっては、吸水口から稚魚が吸い込まれないように、スポンジのストレーナーなどを付けることが必要な場合があります。
砂利はペーハーに影響を与えないものの方が扱いやすいです。
水草のためにソイルを使用した水槽で胎生魚を飼うと、ビギナーの方の場合はよけいな苦労をしてしまうことがあります。
私個人としては大磯砂がもっとも使いやすいと感じております。
水草は育成が難しいものや酸性を好む(適正幅が狭い)のは、当初は避けたほうがいいです。
魚の育成が上手く行けばいいですが、万一トラブルが起こったときに、魚のことを考えなければならない上に、水草のことまで心配しなければならないとなるとパニックになってしまうことがあります。
そういう意味ではエビや貝などのタンクメイトも、魚たちがしっかり落ち着いてからにしたほうがいいかもしれません。
魚を選びましょう
胎生魚に限ったことではありませんが「魚選び」
これが一番大切です。
健康な魚を選びさえすれば、胎生魚の場合は飼育繁殖でそんなに悩むことはありません。(原種を除く) 逆にこれを誤ると、たとえ何度水替しても高価な調整剤を入れても魚はバタバタと落ちていきます。
ベテランはそういう状態の魚でも経験と勘でなんとか立て直しますが、ビギナーの方にはちょっと厳しい作業でしょう。
たとえば下の画像を見比べてください。
同じ品種のプラティですが、向かって左の個体の尾鰭に注目してください。白く濁っていますね。
体の艶も右の個体と比べてくすんで見えるのがお分かりでしょう。
左の個体はしっかりケアしてあげないとこのまま細菌感染症に陥る可能性が大きいです。
立て直す自信が無いならこのような個体の購入は避けるべきですし、同様の個体を多く見かけるようならその水槽からの購入は避けたほうが無難です。
全部元気そうであっても入荷直後だったら買うのは待ったほうがいいです。その場では元気でも、購入後1週間くらいで調子を崩し始める例をよく見かけます。リスクを犯しても気に入った個体をゲットするという冒険は、もっと経験と知識が備わってからにしましょう。
安価な魚の場合、欲しい個体を指定しにくいことがありますよね。特に店員が忙しそうだったりすると尚のこと、「アレとコレとソレ!」なんてお願いしにくいですよね。そうして半ばお任せ状態で10匹くらい買ったら、1〜2匹は痩せたのが混じっているなんていう経験はありませんか?
痩せた個体は弱っていることが多く、雌なら繁殖まで時間がかかりますし、ビギナーの方の場合は最悪そのまま衰弱死させてしまうこともあります。
そこで重要になってくるのが、昔からよく言われることですが「信頼できるショップと懇意になっておく」っていうことです。客を育てて売り上げにつなげるという感覚を持った店主のいるお店なら任せても安心です。
ホムセンなど安く買える場所は、自分自身に魚を見る目と、万一のときに適格な対処ができる知識が備わるまでは避けておいたほうが無難です。結局短期間で死なせてしまえば「安物買いの銭失い」になってしまうのですから。
危険な魚のポイント
まずは動作。
気に入った個体を探すだけでなく水槽内を見渡しましょう。
@底砂などに体をこすりつけている個体はいませんか?
A体を左右に揺するようにして泳いでいる個体はいませんか?
B底に座り込んでエラをバクバクさせている個体はいませんか?
続いて外見
@ヒレやボディに白い小さな点々がありませんか?(考えられる病名:白点病)
Aヒレが白く濁っていて閉じ気味だったり縁が赤く充血していたり、ボディに艶が無い個体はいませんか?(考えられる病名:カラムナリス感染症)
Bボディの一部に糜爛(赤くただれている)があったり、腹部が異常に膨れていたり、ウロコがマツボックリみたいに立ち上がっている個体はいませんか?(考えられる病名:エロモナス感染症)
C痩せている個体は病気とは限らないが、そのまま衰弱死する可能性大。
基本的に健康な胎生魚は、底の方でユラユラしてたり、水面近くでいつまでもボーっとしていることはありません。あっちに行ったり、こっちに来たり、底をつついてみたり、ガラス面を舐めたり、メスを追っかけたりと、とにかく陽気で活発に動き回る魚です。
彼らがおとなしいということは、何らかの不調を抱えている可能性が高いのです。
ショップの方が網をつっこんでしまうと、元気が無かった魚もこのときばかりは逃げ回り区別がつかなくなってしまいます。
そのため最低限、調子が悪そうな魚が多く混じっている水槽からは買ってこないほうが無難です。
メンテナンス
メンテナンスにこれが絶対正しい!、こうしなきゃダメだ!という決まりはありません。
たとえばある方は毎週水替えしているし、またある方は足し水ばかりで数週間目でようやく水替え。
まったく異なるメンテナンスですが、それぞれ魚は元気!という事例は実際あります。どちらが正しいというレベルの話ではなく、魚が調子良ければそれがその方にとって正しいメンテナンスなのです。
ただし「足し水ばかりで数週間目でようやく水替え」という方法が、誰にでも真似できるとは限らず、またそれで長期間維持できる保証もありません。
私がこれからお勧めするメンテナンスは「正しいメンテナンス」ではなく、多くの方が「失敗しにくいメンテナンス」です。
長く飼育に携わって独自の方法で飼えるようになったら、これにこだわる必要はありません。
まずは水替えです。
例えばセッティングの項で紹介した水槽の場合、魚の密度からいっても一週間から十日に一度くらい、3分の1〜2分の1程度の水を交換するくらいで大丈夫です。
もちろん底にカビが生えるほど餌を与えたり、濾過細菌が充分機能していないような水槽なら話しは別です。
換水の際は市販の水替え器具(プロホースなど)を使用して、砂利の中の汚れごと排水しましょう。
砂利が汚れていると水が透明でも病気多発水槽になってしまいます。と言っても隅から隅まで掃除しようとしたら水が全部無くなってしまいます。
今回はこの区画、次回はあっちの区画と適宜分けて行いましょう。だんだん汚れがたまりやすい場所などが分かってきます。
濾過
濾材はできれば期限付きの吸着系に頼らずに、セラミックなど寿命が長いものを使用しましょう。
もちろん吸着系をセッティング初期やリセット時に補助的に使うのはけっこうです。それをメインにして短期間で交換するのは、水槽が安定しない原因にもなります。
寿命が長い濾材はめったに洗う必要がなく、表面に汚れがこびりついてきたなと感じたときにだけ洗います。
このとき水道水で洗ってしまうと大切な濾過細菌が死んでしまうので、バケツなどに水槽の水を汲んで、その中で軽くザブザブして汚れを落とします。
洗浄してもこびりついた汚れが落ちず、目詰まりがまったく解消されなくなったときが交換の目安です。
濾材をしょっちゅう刷新してしまう交換型と違って、濾過細菌へのダメージが少なく水質が変動しません。
コケ取り
オトシンクルやサイアミーズフライングフォックス、ヤマトヌマエビにミナミヌマエビ、そしてラムズホーンなどがポピュラーなコケ取りスタッフですね。条件次第では素晴らしい働きを見せてくれますが、エビや貝類は薬品や塩分に敏感なので、いざ薬浴や塩浴が必要になったとき案外足手まといになったりします。
「エビがいるので薬を使いたくない」などよく耳にするセリフです。
これらの導入は魚の状態が落ち着いてからにして、それまでは人力で行ったほうが無難です。特に購入直後のトラブルが多い東南アジア産のグッピーの場合は、魚の延命に全力を尽くせる環境にしておいたほうが悩まずに済みます。
給餌
餌は朝夕1回ずつでいいでしょう。
本来胎生魚たちは、一日中少量の餌をついばみ続けているような魚ですから、量を少なく(ただし弱い魚にも行渡るように)、回数を多く与えた方がいいのですが、普通の勤め人の場合はちょっと無理があります。休日以外は、どうしても朝晩の二回くらいになってしまうでしょうね。
餌の種類ですが、健康な胎生魚はアカムシ、イトミミズ、ブラインシュリンプ、配合飼料など選り好みしないで何でもよく食べます。
調子を崩すとたいてい配合飼料から食べなくなり、最後にブラインシュリンプを受け付けなくなります。
急に選り好みをするようになったら、まずは餌が変質していないかを疑い、続いて水質の悪化を疑います。
成魚たちは、配合飼料を中心に(配合飼料だけでも可)与えるだけでけっこうですが、稚魚たちを健康に早く成長させたければやはりブラインシュリンプが最高です。
いろいろ試してみましたが、いまだにこれに勝る餌を私は知りません。
水質
さほど気にする必要はありませんが、極端に酸性側に傾くのは避けなくてはなりません。まずは中性から弱アルカリ性の範囲と考えておけば無難です。
ペーハーは7を中性として、それより数値が大きくなればアルカリ、逆に数値が小さくなれば酸性ということになますから、6.5〜7.5の範囲にあればまずは安心と考えてよいでしょう。
濾過細菌が汚物を処理すると水は自然に酸性に傾きます。
長期間水を替えない水槽はどんどん酸性側に傾いていくので、ある日思い立ったように大量に水替えをするとそれまで元気だった魚が、急に調子を崩してしまうことがあります。
これはなぜかと言うと胎生魚は適応力が高いので、ジワジワと変化していった場合は本来好みではない酸性側の水にも耐えます。しかしそれが大量の水替えなどで急激に変化した場合は、好みの水質に向かっての変化でも大きなダメージを受けてしまうのです。
車の運転では「急」がつく操作は避けましょうと言われますが、熱帯魚の飼育でも同様です。
「一週間から十日に一度くらい、3分の1〜2分の1程度の水を交換する」と前述したのは、「急」を避けるという意味があります。
酸性の水もアルカリ性の水も見た目では判りません。かと言って毎回いちいち測定するのも面倒ですから、大きな変動が生じないうちに交換してしまえば無難、というわけなのです。
ペーハーというのは常に変動するものですから、最初のうちは市販の試薬などを使用して時々測定し、自分の水槽の「変動のリズムを目で感じとっておく」ことも良いことです。
それによってご自身の水槽の水替えタイミングもつかめますので。
もちろん魚の調子が良いときは忘れていてもだいじょうぶですが、食欲など魚の様子何か異変の兆候を感じたときはすぐに計ってみてください。
変動のリズムは恒久的なものではなく、魚の数や餌の量、濾材の状態に起因する濾過細菌の働きなど様々な要因で変わるものです。
計ってみると「ええ! こんなに下がっていたの??」と驚くこともあります。
さて、次回は繁殖やよくあるご質問などについて触れてみたいと思います。